大阪高等裁判所 平成9年(う)557号 判決 1997年10月15日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役四年に処する。
原審における未決勾留日数中一八〇日を右の刑に算入する。
押収してある覚せい剤一一袋(当庁平成九年押第一一〇号の2)、覚せい剤白色結晶(チャック式ポリ袋二袋添付、同押号の4)並びに覚せい剤結晶及び水溶液(チャック式ポリ袋二袋添付、同押号の5)を没収する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人住田金夫作成の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、原判決の量刑は重すぎて不当である、というのである。
所論に対する検討に先立ち、職権を持って判断するに、記録によると、原判決は、チャック式ポリ袋入り覚せい剤一袋(平成八年押第八七〇号の3)を原判示第三の罪にかかる覚せい剤の一部で、被告人の所持、所有するものとして、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文によりこれを被告人から没収しているが、右覚せい剤は、関係証拠によると、原判示甲野花子方の和だんすから発見押収されたものであるところ、被告人は、検察官に対し、右和だんすは、二、三日前に被告人方から甲野方に運び込んだもので自分のものであり、中に収納されていたメガネケース等も自分のものであるが、右覚せい剤については、身に覚えがない、甲野方には一人で泊まっていたが、覚せい剤使用者のたまり場になっていたのか、複数の男女が出入りしていたなどと詳細な説明を付して供述しており、原審公判においても、右覚せい剤を所持していたことは認めるものの、その所有関係については、被告人から新たな供述を得ていない。したがって、これが被告人の所持するものであることは関係証拠上認めることはできるものの、自己の所有でないとする被告人の前記供述をにわかに排斤し難く、被告人の所有であると認めるに足りる確たる証拠はないというべきである(当審における事実取調べの結果を踏まえても右判断は左右されない。)。そうだとすると、右覚せい剤を没収するためには、刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法所定の手続を経なければならないところ、原判決までに右手続がなされたことは記録上認められない。したがって、右覚せい剤を没収した原判決には、没収に関する法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はこの点で全部破棄を免れない。
よって、量刑不当の所論に対する判断を省略し、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書を適用して、被告事件について更に判決する。
原判決が挙示する証拠(ただし、判示事実全部について挙示する「被告人の当公判廷についておける供述」とあるのを「原審第三回及び第六回公判調書中の被告人の各供述部分」と、判示第一の事実について挙示する証拠のうち、「押収してある覚せい剤結晶一一袋(平成八年押第八七〇号の2)」とあるのを「押収してある覚せい剤結晶一一袋(当庁平成九年押第一一〇号の2)」と判示第三の事実について挙示する証拠のうち、「押収してある覚せい剤結晶三袋(平成八年押第八七〇号の3ないし5)」とあるのを「押収してある覚せい剤結晶一袋(当庁平成九年押第一一〇号の3)、覚せい剤白色結晶(チャック式ポリ袋二袋添付、同押号の4)並びに覚せい剤結晶及び水溶液(チャック式ポリ袋二袋添付、同押号の5)」と訂正する。)により認定した罪となるべき事実(ただし、「平成八年押第八七〇号」とあるのを「当庁平成九年押第一一〇号」と改める。)にその掲げる法令(再犯加重、併合罪加重を含む。)を適用し、その刑期の範囲内で処断すべきところ、被告人が所持していた覚せい剤は合計約五〇グラムという極めて多量なものであるうえ、被告人には、累犯前科を含め、覚せい剤取締法違反の罪による懲役前科が三犯もありながら、またもや本件各犯行に及んでおり、被告人の覚せい剤に対する新和性、常習性は顕著であるとともに、規範意識のなさも甚だしく、本件の犯情は悪いというべきである(なお、弁護人は、被告人には、判示第一の覚せい剤について、覚せい剤であることの確定的な認識はなかった、と主張し、被告人もこれに沿う供述をしているが、右覚せい剤の入手状況が被告人の供述するとおりであったとしても、被告人が長年覚せい剤に深く関わっていること、判示病院に搬送された際に看護婦に発した言動等に照らし、被告人に覚せい剤であることの確定的な認識があったことは優に認められるというべきであり、これに反する被告人の供述は措信できず、右主張は採用の限りでない。)が、他方、被告人が反省していることなど、被告人のために酌むことができる諸事情もあり、これらを総合考慮して、被告人を懲役四年に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入し、主文掲記の覚せい剤一一袋は判示第一の罪にかかる覚せい剤で被告人が所持するものであり、覚せい剤白色結晶(チャック式ポリ袋二袋添付)並びに覚せい剤結晶及び水溶液(チャック式ポリ袋二袋添付)はいずれも判示第三の罪にかかる覚せい剤で被告人が所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の八第一項本文によりこれらを没収することとする。なお、チャック式ポリ袋入り覚せい剤一袋(当庁平成九年押第一一〇号の3)は、判示第三の罪にかかる覚せい剤の一部で、被告人の所持するものであるが、前示のとおり、原判決までに前記応急措置法所定の手続を経ておらず、また、同法三条一項によれば、当審において右手続をすることはできないこととなっており、結局これを没収することはできないので、覚せい剤取締法四一条の八第一項ただし書を適用して没収しないこととする。そして、原審及び当審における訴訴費用については、刑訴法一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田崎文夫 裁判官 久米喜三郎 裁判官 毛利晴光)